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旅館は、買い手が変われば「再生」したことになるのか

9月5日
読了時間: 8分

経営が厳しくなった旅館に、新しい買い手が現れる。

大手企業が買収する。

投資会社やファンドが資本を入れる。

新しい経営者のもとで営業が続く。

建物が残り、従業員の雇用も継続されれば、それは非常に大きな意味があります。


廃業するよりも、事業が承継される方がいい。

私たちも、そう思います。

M&Aは、旅館を残すための重要な選択肢の一つです。


しかし、旅館再生の現場に携わってきた立場から、一つ考えておきたいことがあります。


それは、

旅館の所有者が変わることと、その旅館の事業そのものが再生することは、同じなのだろうか。

ということです。



M&Aが成立することと、旅館再生が完了することは違う


旅館のM&Aでは、売り手から買い手へ経営権が移ります。

既存債務が整理されることもあります。

新しい資本が入ることもあります。

設備投資が行われることもあります。

非常に重要なことです。


しかし、それだけで旅館の収益構造そのものが変わるわけではありません。


例えば、

宿泊単価が低い。

料理原価が高い。

人員配置が事業規模に合っていない。

販売方法が古い。

稼働率を上げても利益が残らない。

設備維持費が重い。


こうした問題を抱えていた旅館なら、株主や経営者が変わっても、事業の中にある問題そのものは残ります。資本が入れば、一時的に資金繰りは安定するかもしれません。


しかし、

その旅館自身が利益を生み続けられる事業にならなければ、本当の意味で再生したとは言えない。

私たちはそう考えています。



「誰が持っているか」より、「その旅館が稼げるか」


旅館再生で最も重要なのは、企業の規模ではないと思っています。

大企業だから再生できる。

中小企業だから再生できない。

必ずしも、そうではありません。


重要なのは、

その旅館の商品に価値があるのか。

適切な価格で販売できているのか。

必要な売上をつくれるのか。

その売上から利益を残せるのか。

設備を維持できるのか。

借入金を返済できるのか。

次の設備投資ができるのか。


という、

旅館そのものの事業性です。


どれだけ資金力のある会社が所有していても、毎年赤字を補填しなければ営業できない状態なら、いつか経営判断を迫られます。

反対に、規模の小さな会社であっても、その旅館自身が利益を生み、必要な投資を行いながら経営できるのであれば、長く事業を続けることができます。



M&Aは「出口」ではあっても、「再生」そのものではない


M&Aの目的は案件によって違います。

長期間保有して事業を成長させる会社もあります。

地域に根差して旅館を運営する企業もあります。

資本力を生かして大規模な改修を行い、素晴らしい旅館へ再生する事例もあります。


一方で、企業や投資家によっては、取得した事業の価値を高めたうえで、将来、別の企業へ譲渡することを事業戦略としている場合もあります。


買収される。

経営を改善する。

企業価値を高める。

そして、次の買い手へ売却する。

資本市場の考え方として、それ自体を否定するものではありません。


ただ、旅館という事業を考えたとき、私たちは別の時間軸も必要だと思っています。

5年後にいくらで売れるか。

だけではなく、

20年後も、この場所にこの旅館があるか。

という時間軸です。



所有者が変わり続けても、旅館そのものが強くならなければ意味がない


所有者が変わるたびに、新しい資本が入る。新しい経営方針になる。

ブランドが変わる。引先が変わる。人が変わる。そして数年後、また所有者が変わる。


もちろん、それによって旅館が良くなるケースもあります。

しかし、所有者が変わることによって事業を維持するのではなく、

所有者が誰であっても、その旅館自身が利益を生み続けられる状態をつくる。

こちらの方が、旅館を長く残すためには重要ではないでしょうか。


私たちが再生したいのは、

旅館の株主ではありません。

旅館の事業そのものです。



旅館再生とは、「事業性そのものの価値」を取り戻すこと


では、私たちが考える旅館再生とは何なのか。


売上を増やすことだけでもありません。

赤字を一時的に黒字にすることだけでもありません。

借入金を整理することだけでもありません。

買い手を見つけることだけでもありません。


私たちが考える旅館再生とは、

その旅館が、自ら利益を生み、借入金を返済し、雇用を守り、必要な設備投資を行いながら、長く経営を続けられる事業に戻ることです。


そのために、

商品を変える。

価格を変える。

販売方法を変える。

料理を変える。

働き方を変える。

営業日を変える。

コスト構造を変える。

場合によっては、事業規模そのものを変える。

一つひとつ、旅館の中身を変えていく。


資本の力によって支えるだけではなく、

旅館自身が生きていける力を取り戻す。

それが、私たちの考える再生です。



ひるがみの森で目指したのも、「売れる旅館」ではありません


私たちが現在運営している「ホテルひるがみの森」も、再生案件として事業を引き継いだ旅館です。私たちが目指したのは、数年後に高く売却することではありませんでした。


自分たちで経営する。

売上をつくる。

利益を残す。

スタッフの雇用を維持する。

金融機関への返済を続ける。

必要な設備投資をする。


そして、

この先も昼神温泉で旅館として営業を続けられる事業にする。

そのための再生です。


だから私たちは、旅館の価値を「いくらで売れるか」だけでは考えていません。

「この旅館は、この場所であと何年経営を続けられるのか」

という視点を大切にしています。



ホテルは新しく建つ。でも、旅館は一度なくなると戻ってこない


日本では、新しいホテルが建設されています。

都市部だけではなく、観光地にも新しいホテルブランドが進出しています。

新しい宿泊施設が生まれること自体は、観光産業にとって必要なことです。


しかし、その一方で、長年地域で営業してきた旅館は、経営者の高齢化、後継者不足、施設老朽化、借入負担、人材不足など、さまざまな理由によって姿を消していきます。


そして重要なのは、

一度なくなった旅館が、もう一度同じ場所に生まれることは簡単ではない

ということです。


旅館には、

建物だけではなく、

温泉があり、

料理があり、

接客があり、

働く人がいて、

地域との取引があり、

長年積み重ねてきたお客様との関係があります。

これは、新しい建物を建てればそのまま再現できるものではありません。



旅館がなくなれば、温泉地そのものが弱くなる


一軒の旅館がなくなる。


最初は、一企業の廃業に見えるかもしれません。

しかし、それが二軒、三軒と続けばどうでしょうか。


宿泊できる人数が減る。

温泉地を訪れる人が減る。

地元の食材を仕入れる量が減る。

酒屋やクリーニング、設備会社などの仕事が減る。

働く場所が減る。

商店や飲食店を利用する人も減る。

そして少しずつ、

温泉地全体の経済が弱くなっていきます。


旅館は、単独で存在しているわけではありません。

旅館を中心に、人と仕事とお金が地域を循環しています。

だから私たちは、旅館の再生を一企業だけの問題とは考えていません。



M&Aは手段。再生は目的。


M&Aを否定する必要はありません。資本を入れることも必要です。

経営者を変えることが必要な場合もあります。大企業の力を借りることが最善のケースもあります。


しかし、それらはすべて、

旅館を長く続けられる事業にするための「手段」

であるはずです。


M&Aが成立した。

買い手が見つかった。

債権を回収できた。


そこで再生を完了にするのではなく、その旅館がその後、

利益を生み、

雇用を守り、

地域との取引を続け、

必要な設備投資を行い、

10年、20年と営業を続けられるのか。


そこまで見届けて初めて、

「旅館が再生した」

と言えるのではないでしょうか。



旅館を、地域に残す。


日本に古くから続いてきた「旅館に泊まる」という文化を、次の世代にも残したい。

そのためには、旅館をただ延命するだけでは足りません。

誰かに買ってもらい続けなければ存在できない旅館でもいけません。

旅館そのものが、長く続けられる事業である必要があります。


自分で稼ぐ。

自分で返済する。

自分で設備を更新する。

そして、その地域で経営を続ける。

そんな旅館を増やしていく。

それが、旅と館が考える「旅館再生」です。


そして、

旅館を、地域に残す。

それが、私たちがこの仕事を続ける理由です。



金融機関・支援機関の皆様へ


取引先の旅館について、

「M&Aを検討しているが、その後の事業継続まで見通せていない」

「買い手を探す前に、旅館そのものを再生できないか検討したい」

「事業には価値があるが、現在の経営体制では続けることが難しい」

「地域に必要な旅館なので、できれば長く残したい」


そのような案件がありましたら、正式な再生案件になる前でも構いません。

旅館名や企業名を伏せた段階でのご相談でも結構です。


「誰に売るか」を考える前に、「どうすればこの旅館が長く続くのか」を考える。

そこから始める旅館再生があってもいいと、私たちは考えています。



 
 
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